中国工場でDXや業務改善を進める中、多くの日系企業が生産管理システムや在庫管理システム、MESなどの導入を検討しています。しかし、中国では日本とは異なる商習慣やシステム開発環境が存在するため、日本国内と同じ感覚でシステム導入を進めると失敗するケースも少なくありません。
実際には「価格が安いから選んだ」「対応できると言われたから依頼した」という理由で導入を進めた結果、期待した機能が実現できない、追加費用が膨らむ、導入後に改善が進まないなどの問題が発生することがあります。
本記事では、中国工場でシステム導入を検討する日系企業向けに、よくある失敗事例やベンダー選定時の注意点、導入を成功させるポイントについて解説します。
この記事の目次
・なぜ中国工場のシステム導入で失敗が発生するのか
・中国工場でよくあるシステム導入の失敗事例
・導入後に発生しやすいシステム運用の問題
・システムベンダー選定時に確認すべきポイント
・システム導入で期待できる効果
・中国工場のシステム導入時の注意点
・どのような企業がシステム導入を検討すべきか
・中国工場のシステム導入でよくある質問
・中国工場のシステム導入で失敗しないために
なぜ中国工場のシステム導入で失敗が発生するのか
日本と中国で商習慣が異なる
中国では日本と異なる商習慣や仕事の進め方が存在します。そのため、日本国内でシステム導入を進めた経験があっても、中国で同じ方法が通用するとは限りません。
特にシステム開発では、要件確認や仕様の認識に違いが発生しやすく、「できると思っていたことができない」「依頼した内容と完成品が違う」といったトラブルが発生する場合があります。中国工場でシステム導入を行う際は、口頭確認だけでなく、要件や仕様を文書化して進めることが重要です。
価格だけでベンダーを選定してしまう
システム導入では価格も重要な判断基準ですが、価格だけでベンダーを選定すると失敗する可能性があります。
初期費用が安く見えても、導入後に追加開発費用を高額に請求され、最終的には想定以上の費用が発生するケースもあります。また、業務理解や提案能力が不足している場合、システムは導入できても業務改善につながらないことがあります。
価格だけでなく、実績やサポート体制、開発能力を総合的に確認することが重要です。
導入目的や要件が曖昧なまま進める
システム導入の失敗原因として多いのが、導入目的や要件が明確になっていない状態でプロジェクトを開始してしまうことです。
「在庫管理を改善したい」「生産管理を効率化したい」といった大まかな目的だけでは、必要な機能や運用方法を正確に決めることができません。
まずは現状業務の課題を整理し、何を改善したいのか、どのような効果を期待するのかを明確にした上で、システム導入を進めることが重要です。
中国工場でよくあるシステム導入の失敗事例
中国工場のシステム導入では、システムそのものの問題ではなく、ベンダー選定や事前確認不足によって失敗するケースが少なくありません。ここでは実際によく発生する失敗事例を紹介します。
初期費用は安いが追加開発費が高額だった
中国では低価格を強みとするシステムベンダーも多く存在します。しかし、初期費用だけを見て導入を決定した結果、稼働後に必要となる機能追加や帳票修正、データ連携などの追加開発費用が高額になるケースがあります。
メインシステムを導入し、他社への切り替えが難しいと分かった時点で、高額請求を受けたという話はよく聞く失敗談です。
システム導入時は初期費用だけでなく、将来的な追加開発や保守費用の考え方についても事前に確認しておくことが重要です。
対応可能と言われた機能が実現できなかった
商談段階では「対応可能です」と説明を受けたものの、実際の開発段階になってから技術的な制約や経験不足により実現できないことが判明するケースがあります。
特に製造業向けのシステムでは、現場運用や業務フローへの理解が必要となるため、過去の導入実績や類似案件の経験を確認することが重要です。
設備連携ができると言われたが実現しなかった
製造設備やPLCとの連携は、システム開発の中でも専門知識が必要となる分野です。
設備メーカーやPLCメーカーによって通信方式やデータ取得方法が異なるため、単純に「設備連携が可能」という説明だけでは判断できません。実際にどの設備との接続実績があるのか、どのようなデータ取得を行ったのかを確認する必要があります。
担当者退職後に保守対応ができなくなった
中国では人材の流動性が高く、開発担当者が退職するケースも珍しくありません。
システム導入時は問題なく対応できていても、担当者退職後にシステム内容を理解している人がいなくなり、引き継ぎ者がおらず保守や改修ができなくなる場合があります。
属人化した開発体制ではなく、複数名で対応できる体制が整備されているか確認することが重要です。
日本語サポートが受けられなかった
中国現地スタッフとのやり取りは問題なくても、日本人駐在員や日本本社への説明が必要になるケースは少なくありません。
しかし、導入後に日本語での問い合わせ対応ができない、障害報告や改善提案が中国語のみで行われるといった問題が発生することがあります。
システム導入後の運用を考慮し、日本語によるサポート体制が整備されているかも重要な確認ポイントとなります。
導入後に発生しやすいシステム運用の問題
システム導入の成功は稼働開始ではありません。本来の目的はシステムを活用して業務改善を継続することです。しかし中国工場では、システム稼働後に様々な問題が発生し、期待していた効果が得られないケースがあります。
パッケージソフトに業務を合わせる運用になった
システム導入時によく発生する問題が、現場業務をシステムに合わせて変更しなければならないケースです。
本来は業務課題を改善するためにシステムを導入したにもかかわらず、パッケージソフトの機能制限によって現場が無理に運用を変更する場合があります。
その結果、二重入力やExcel管理が残り、システム導入前より業務が複雑になるケースもあります。
現場改善の提案が受けられない
システムベンダーによっては、業務改善の提案ができない場合があります。
例えば在庫管理の相談をした場合でも、単純に在庫管理システムを導入するだけで終わり、本来改善すべき入出庫運用や棚卸し方法、トレーサビリティ運用などについて提案が行われないケースがあります。
システムは導入できても、期待していた業務改善が実現できない原因の一つです。
業務理解不足で二次開発が進まない
製造業の現場では、システム導入後に改善要望が発生することが一般的です。
しかし、ベンダーが現場業務を理解していない場合、改善内容を正しく理解できず、二次開発が思うように進まないことがあります。
また、毎回一から業務説明が必要となり、改善スピードが低下するケースもあります。このような問題はベンダーの開発経験や業務理解力に大きく左右されます。
システムは稼働したが現場が定着しない
システムとしては正常に動作しているにも関わらず、現場で利用されなくなるケースもあります。
入力作業が複雑、操作が難しい、現場の運用と合っていないなどの理由から、次第にExcelや紙管理へ戻ってしまうことがあります。
システム導入時は機能だけでなく、現場担当者が継続して利用できる運用設計、ハード機器選定も重要になります。
ベンダーが業務改善を理解できない
システム開発会社の中には、プログラム開発はできても製造業の業務改善経験が少ない企業もあります。
その場合、お客様から改善相談を受けても適切な提案ができず、システム改修が単なる機能追加になってしまうことがあります。
中国工場のDXや業務改善を成功させるためには、システム開発能力だけでなく、製造業の業務理解や改善提案能力を持つベンダーを選定することが重要です。
システム導入を検討する企業担当者も業務の専門家です。ベンダーと複数回面談を行うと、ある程度はどのくらいのレベルの開発担当者か、判断が可能かと思います。ぜひ提案を含め数回の面談を実施してみてください。
システムベンダー選定時に確認すべきポイント
中国工場でのシステム導入を成功させるためには、システムそのものよりもベンダー選定が重要になる場合があります。導入前に以下のポイントを確認することで、導入後のトラブルや想定外の追加費用を防ぐことができます。
過去の導入実績を確認する
システムベンダーを選定する際は、まず過去の導入実績を確認します。
特に製造業向けシステムの場合は、「どの業界で導入したか」「どの規模の企業へ導入したか」「どのような課題を解決したか」を確認することが重要です。
また、自社と似た業種や工程での導入経験がある場合は、スムーズな導入や改善提案が期待できます。
業務ヒアリング能力や提案能力を確認する
システム導入では、プログラム開発能力だけでなく業務ヒアリング能力や提案力も重要です。
現場の課題を正しく理解できなければ、どれだけ優れたシステムを導入しても期待した改善効果は得られません。
商談時にシステム説明ばかりではなく、「現状業務」「現場課題」「改善目的」について具体的な質問が行われるかも確認ポイントとなります。
ヒアリング内容に応じた提案能力があるかを確認する
一部のベンダーでは、ヒアリング内容に対して「全て出来る」としか回答せず、お客様の内容に沿った提案書の提出を行わない場合もあります。その理由は成約不明な案件に対して提案作成の時間を省きコスト削減したい、本来は提案力がない部分を露見させたくないためです。
また提案内容を競合他社へ共有し、相見積もりだけに利用されるケースもあります。そのため提案内容だけで判断するのではなく、実際に開発や保守を担当する体制や技術力も確認することが重要です。
本当に適切な開発や対応を行う能力があるのか、責任者が公平な目線で最終判断する必要があります。
二次開発の対応範囲を確認する
システムは導入後に改善要望が発生することが一般的です。
そのため、「どこまで自社開発できるか」「追加開発は可能か」「ソースコード管理はどうなっているか」などを事前に確認しておくことが重要です。
特に中国工場では業務変更や客先要求により運用が変化することも多いため、柔軟に改善できる体制が求められます。
設備連携の実績を確認する
製造業のシステムでは、設備やPLCとの連携が必要になるケースがあります。しかし設備連携は専門知識が必要となるため、単純な業務システム開発とは難易度が異なります。
過去にどのメーカーの設備と接続した経験があるのか、どのようなデータを取得したのかなど、具体的な実績を確認することが重要です。
保守体制を確認する
システムは導入して終わりではありません。障害対応や機能改善、OS更新など、導入後も継続的な対応が必要になります。
そのため、メインは中国語対応になると思いますが「日本語対応が可能か」「中国全土で対応できるか」「担当者不在時の対応体制はあるか」などを事前に確認しておくことが重要です。
システム導入で期待できる効果
システム導入の目的は単なるデジタル化ではなく、業務効率化や情報共有の強化、属人化の解消などの業務改善を実現することです。ここでは中国工場でシステム導入を行うことで期待できる主な効果を紹介します。
業務の標準化
紙やExcelを利用した管理では、担当者ごとに運用方法が異なり、作業品質にばらつきが発生することがあります。
システム導入後は入力方法や業務フローを統一できるため、担当者変更時の引継ぎも容易になり、安定した業務運用を実現できます。
リアルタイムな情報共有
システム導入前は、Excel集計や日報提出後に情報を確認する運用も少なくありません。
システム導入後は、生産実績や在庫情報などをリアルタイムで確認できるようになり、現場と管理部門、日本本社との情報共有スピード向上が期待できます。
人依存業務の削減
特定担当者しか分からない業務は、退職や異動時のリスクとなります。
システム導入によって業務ルールを標準化することで属人化を防止し、安定した運用につなげることができます。
データ活用による改善活動
システムには生産実績や在庫情報、品質情報などのデータが蓄積されます。
これらのデータを分析することで課題の発見や改善活動に活用できるため、継続的な業務改善が期待できます。
中国工場のシステム導入時の注意点
システム導入は高額な投資になるため、導入前の計画や進め方が重要になります。導入を急ぎすぎて現場の運用を十分に確認せずに進めると、期待した効果が得られない場合があります。
ここでは中国工場でシステム導入を行う際に注意したいポイントを紹介します。
最初から全てをシステム化しない
システム導入時によくある失敗として、あらゆる業務を一度にシステム化しようとするケースがあります。
しかし、対象範囲が広くなるほど開発期間や費用が増加し、現場の混乱も発生しやすくなります。
まずは在庫管理や生産実績収集など、効果が見えやすい業務から導入し、運用が安定した後に機能追加や対象範囲の拡大を検討する方法がおすすめです。
現場運用を考慮して設計する
システムは現場担当者が日常的に利用するため、使いやすさが重要になります。
管理者目線だけで機能を追加すると、入力項目が増えたり操作が複雑になったりして、現場で利用されなくなる可能性があります。
そのため、導入前には実際の作業内容や運用方法を確認し、現場担当者の意見も取り入れながら設計を進めることが重要です。
改善を前提としたシステムを選定する
製造現場の業務は、顧客要求や生産体制の変化によって継続的に変化します。
そのため、導入時の機能だけで判断するのではなく、将来的な機能追加や運用変更に対応できるかも確認する必要があります。
また、システム導入後に改善提案や二次開発へ対応できるベンダーを選定することで、長期的な業務改善につなげることができます。
システム導入はゴールではなくスタートです。導入後も継続的に改善できる環境を構築することが、システム導入を成功させるポイントとなります。
どのような企業がシステム導入を検討すべきか
システム導入は全ての企業に必要という訳ではありません。しかし、現場運用や管理業務に課題を抱えている場合は、システム導入による改善効果が期待できます。
Excel管理に限界を感じている企業
多くの中国工場ではExcel管理が行われていますが、管理対象が増えると入力ミスや転記ミス、集計作業の負担が増加します。
Excelによる管理負荷が高くなっている場合は、システム導入を検討するタイミングかもしれません。
人手不足に悩んでいる企業
中国でも人件費の上昇や人材確保の難しさから、人手不足に悩む企業が増えています。
管理業務やデータ入力業務に多くの工数が発生している場合は、システム導入による効率化が期待できます。
業務の属人化を解消したい企業
特定担当者しか業務内容を理解していない状態は、退職や異動時の大きなリスクとなります。
システム導入によって業務ルールを標準化することで、属人化リスクの低減が期待できます。
中国拠点の管理強化を進めたい企業
中国工場の状況をリアルタイムで把握したい、日本本社との情報共有を強化したい企業にもシステム導入は有効です。
生産実績や在庫情報などをタイムリーに確認できる環境を構築することで、中国拠点の見える化や管理レベル向上につながります。
中国工場のシステム導入でよくある質問
中国製システムでも問題ないか?
中国製システムだから問題がある、日本製システムだから安心という訳ではありません。
重要なのは、自社業務に適しているか、必要な機能を満たしているか、導入後のサポート体制が整備されているかです。
また、中国製システムの場合は中国現地の商習慣や法規制への対応に強みを持つ場合もあります。そのためシステムの国籍ではなく、導入実績やサポート体制を含めて総合的に評価することが重要です。
安いシステムを選んでも大丈夫か?
価格だけでシステムを選定することはおすすめできません。
初期費用が安くても、追加開発費用や保守費用が高額になるケースがあります。また、業務理解や改善提案能力が不足している場合、システムは導入できても期待した業務改善が実現できないことがあります。
システム導入では価格だけでなく、導入実績や技術力、保守体制も含めて比較検討することが重要です。
二次開発は必要になるのか?
製造業向けシステムの場合、二次開発が発生するケースは少なくありません。
顧客要求の変化や現場改善活動によって、新しい機能や帳票が必要になることがあります。
そのため導入時には、将来的な改善や機能追加に対応できる体制があるかも確認しておくことをおすすめします。
日本語対応は必要か?
日本人駐在員や日本本社とのやり取りがある場合は、日本語対応が可能なベンダーを選定することをおすすめします。
導入時だけでなく、障害発生時や改善提案時にも日本語で相談できる環境があることで、認識違いやコミュニケーションロスを減らすことができます。
特に中国工場のシステム導入では、現地スタッフと日本側担当者の両方が利用するケースも多いため、日本語対応の有無は重要な確認ポイントとなります。
中国工場のシステム導入で失敗しないために
中国工場のシステム導入では、価格や機能だけで判断するのではなく、業務理解力や改善提案力、二次開発への対応力なども重要な選定基準となります。
実際にはシステム導入そのものよりも、導入後に現場へ定着し継続的な改善活動へつなげられるかが成功の分かれ道になります。また、中国特有の商習慣や開発環境を理解した上で、十分な要件定義やベンダー選定を行うことも重要です。
これから中国工場でシステム導入を検討する際は、導入費用だけではなく長期的な運用や改善活動も見据えて、自社に適したパートナー選びを進めることをおすすめします。